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土そよ小話 4 [いろいろ小話]

銀魂の小話です。
土方さんとそよ姫のお話。新婚生活満喫中です(笑)。

 ↓ からスタートです。

騒々しい雑踏の中、聞き慣れた音を耳にし、土方は足を止めた。
たしかこの音は、新婚旅行で訪れた箱根で買った財布に付いていた鈴の音。
ころころと聞こえてくるかすかな鈴の音を辿っていくと、人ごみの中、見慣れた背中に行きあたる。
ふっと普段の彼からは想像もつかないような柔和な表情を浮かべ、土方はその音色の後を追った。



昨日を明日に繋ぐため



「そよ。」
背後から呼びかけられ、そよはゆっくりと振り向く。
「十四郎さま」
自分の夫の姿を目にし、そよは笑顔を浮かべた。
「こんな所でどうした?買い物か?」
土方はそよの隣に並び、問いかける。
「ええ。お野菜が少なくなってきたので、買っておこうかと思って。」
「俺も付き合おう。」
「少し遠い八百屋さんなんですが構いませんか?」
「今日はもう上がりだから、構わねぇよ。」
土方の言葉に、そよは「本当ですか!?」と嬉しそうに両手を合わせた。

土方とそよが結婚して、早1年が過ぎた。
町中を歩けば、一歩あるくごとに「土方さん、あれはなんですか?」とそよが尋ねていたのも、今では懐かしい思い出だ。もう誰の案内がなくとも、そよは一人で歩けるくらい町に馴染んでいた。
―――思うがままに怒って、泣いて、笑って。
土方がそよに過ごしてほしいのは、そういうありふれた時間であった。
今まで出来なかったことを、目一杯してほしい。一人の人間としてそよが誰にも気兼ねなく暮らせるように、土方はあらん限りの力を尽くすつもりでいた。
・・・と、まあ、格好の良いことを嘯くも、本心はまた別のところにある。
正直なところ、今の状況は土方にとって喜ばしい半分、苦虫を噛むような気持ち半分であった。
城下で楽しく暮らしていくのに比例し、交友関係がどんどんとひろがっていくそよ。
―――悪い虫がつくのではないか・・・。
平然としている表情の影で、しょうもないことを日夜心配している、心の狭い「鬼の副長」であった。



そよが足を止めたのは、いたって普通の八百屋だった。
「へい、らっしゃい!奥さん、今日も新鮮な野菜、入ってるよ!」
店主のダミ声が狭い店内に響き渡る。土方は店先に陳列されている野菜をとりあえず手に取った。
そよは店内をてくてく歩きまわり、
「それとこれを下さいな。」
と、目当ての野菜を指さす。常連さんといった態だ。
店主は「へい、毎度!」と、野菜を紙袋に詰めていった。
「いつもありがとうね。はい、おまけ!」
笑うと人懐っこい顔になる八百屋の親父が、紙袋に林檎を二つ追加した。
「ありがとう!」と笑顔で礼を言うそよを、ヤニさがった顔をした店主が見ているのに気付き、「チッ・・・!」と土方が舌打ちしたのは内緒の話である。

「普通の八百屋だな。」
「え?」
土方はそよの手から紙袋を取りながら呟く。
「いや、遠出するくらいだから何か他とは変わった八百屋なのかと思っただけだ。」
「・・・・・」
そよは少し考えた風であった。そして何か言いたげに土方を見たかと思うと視線をそらし、また見たかと思うと下を向いてしまう。
何か躊躇する理由でもあるのだろうかと、土方が悶々と思い始めたころ、
「・・・『奥さん』って・・・。」
ほんのかすかな声が聞こえてきた。
「・・・あのご主人・・・わたしのこと、『奥さん』って初めて呼んでくれた方なんです・・・。とっても嬉しかった・・・。」
その時を思い出しているのか、そよの頬が赤くなった。
土方は、思わず咥えていた煙草を落としそうになった。


想像する。
散歩がてらにきた場所に、おいしそうな野菜や果物を陳列している八百屋があった。
初めてきた店だ。さぞかし緊張したことだろう。
そよは店の奥で作業している店主に、おそるおそる声をかける。
「あの・・・すみません。」
「へい、らっしゃい、『奥さん』!」


八百屋の親父としては、深い意味はなく、店先に立った客に対する条件反射だったに違いない。
だがそよにとっては、まさに「神の一声」だったわけで。
土方はふぅと煙草を深く吸いこみ、はにかむ表情のそよを見つめた。
―――よくもまぁ、あんな陰謀渦巻く城の中で、ここまでまっさらに育ったものだ・・・。
それなりに人の裏の顔も見てきただろうに、当人がいたって天然素材なのはそよ個人の資質によるところが大きいのか、はたまた爺やの教育が良かったのか・・・。
なんにせよ、この若奥さんは、小さなことを大きな喜びに変換するのが得意のようだ。
土方がそんなことを考えているとは露知らず、そよは呆れられたと勘違いしたのか「・・・やっぱり言わなければ良かった・・・。」と、ますます頬を赤らめた。
そんなこと、あるわけない。
土方はじわじわとこみ上げてくる愛しさを、こらえているところなのであった。
もちろん、それをごまかす術は心得たもので、ゴホンと咳払いをし、
「そんなに嬉しいのなら、いくらでも言って差し上げますよ、『奥さん』。」
そう言って、そよに顔を近づけニヤッと笑った。
そよは「もうっ!」と頬を膨らませ、先に歩いて行く。土方は、クククと笑いながら、すぐに後を追った。



耳心地の良い鈴の音を追いかけながら、土方はそよの背中を見つめる。
今までもこれからも。
きっと、ずっと。
こうして俺は、何度でも幸せを実感するに違いない。
土方はそう思った。




【あとがき】
この小話は姫祭企画に参加した時のものです。
お題は、「昨日を明日に繋ぐため」。
昨日も今日も明日も幸せでいてほしいなぁ、という気持ちで書きました。
そよ姫、再登場乞う!!
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