SSブログ

しんあい小話 1 [いろいろ小話]

くれよんしんちゃんの小話です。
高校生のしんちゃんとあいちゃんのお話の前編になります。
まだ付き合ってはいない二人です。

 ↓ からスタートです。

事の発端は、あいの下駄箱の中に一通のラブレターが置いてあったこと。
放課後、誰もいなくなった教室でそれを開封した時、運悪くネネが忘れ物を取りに戻ってきた。ネネには特殊な嗅覚が備わっているとしか思えないドンピシャのタイミングであった。ネネはあいの手にある便箋に目敏く気づき、すかさず詰め寄って来た。
手紙の中味はもちろん見せてはいないが、ネネは携帯もあるご時世にラブレターという手段を選んだ送り主がいたく気に入ったらしい。
「今どきロマンチックよね~。」
と、あいの前の座席に陣どり、頬杖をついた。
「でも考えてみれば、メールでの告白も保存しちゃえばず~っと残るものね。手紙と一緒っていえば一緒か。」
そして勝手に分析し始める。
「直筆で人柄も見てもらおうという魂胆かしら。んん?となると、意外と計算するタイプなのかも・・・?」
言いたい放題である。
―――まあ、昔からネネちゃんはこういうところがありましたものね。
あいはこっそりため息をつく。
「で、どうするの?」
「・・・どうもしませんわ。」
あいはわざと無表情で答えた。
「え~、もったいないじゃない。」
そっけない返事にネネは身を乗り出してくる。
「せっかくラブレターくれたんだから、1回くらい会ってあげてもいいじゃない。」
「その気もないのにそんなことはできません。」
「返事もしないなんて、ひどい・・・。けちんぼ。」
「・・・ネネちゃん、面白がってるだけじゃないですの?」
あいが呆れたように言うと、ネネは「ばれた?」と舌を出した。
「でも真面目な話、返事くらいはしといた方がいいんじゃないのかな。」
忘れ物を手にネネは椅子から立ち上がり、
「・・・二股もいいかもよん?」
穏やかでないことを言いながら、「じゃ、また明日」と、軽く手を挙げ教室から去って行った。
「まったく、人ごとだと思って・・・。」
あいは苦笑し、鞄を手にとった。

階段を降りると、下駄箱の入り口に剣道の防具袋を肩にかけた信之介の姿が見えた。
「しん様。」
あいの声に信之介は顔を上げる。
「さっきネネちゃんがニヤニヤしながら帰ってった。」
あいはなんと言って言いものやら分からず、曖昧に笑ってごまかした。
「帰ろう。」
「はい。」
二人は並んで歩きだす。
信之介とあいは、頭一つ分の身長差がある。小学校高学年になると信之介の身長はぐんぐん伸び、中学2年のころには父親の身長を越したと聞いた。あいにしてみれば、あの“のっぽなおじ様”の身長を抜いてしまうなんて驚くべきことである。
ずいぶん成長したなぁ、とあいは思う。
「あいちゃん、時間ある?」
「あ、はい。」
信之介に突然話をふられ、あいは適当に相槌を打つ。
「公園寄って行ってもいい?」
“公園”の単語が出てきたとき、あいの心臓は跳ね上がった。平然を装って頷いてはみたものの、内心冷汗が流れていた。
先ほど手にしていた恋文には、こう書いてあったのだ。
『18:00、公園の噴水前で待ってます』、と。
あいは一瞬、信之介が超能力者になったのではないかと疑った。



公園のベンチに防具袋とあいを残し、「クレープを買ってくる」と信之介は席を立った。
目で追うと、木の下に一台のワゴン車が止まっているのが見えた。移動販売式のクレープ屋のようだ。信之介が声をかけると、車の中から女の人が顔を出した。25歳前後であろう、綺麗な女性であった。「また来てくれたの」と笑顔で対応しているところをみると、どうやら信之介がこのお店に寄るのは初めてではないらしい。信之介の表情は見えないが、おそらく脂(やに)下がっているに違いない。
幼稚園時代の信之介の十八番、『おねいさ~ん』という声を思い出し、あいは信之介の背中を睨んだ。それこそ当時のあいなら「しんさま~!」と信之介の背中に飛びついて、二人の会話を邪魔していただろう。だが今は、一応分別ある大人への階段を上っている途中。嫉妬の炎を燃やしながら、ただ睨むだけに留めておいた。
―――相変わらず年上好きなんだから。
あいはぷいと視線をずらす。
ずらした先には噴水があった。
「・・・あ。」
時計を見ると、手紙に書いてある時間の10分前だった。あいの座っている場所からは、手紙の送り主らしき学生はまだ見当たらない。
―――・・・どうしましょう・・・。
その時、信之介と女性店員の笑い声が耳に入ってきた。視線を戻すと、クレープなどそっちのけで二人が親しげに語らっている。
あいはカチンときた。
信之介のいる場所からは噴水は見えないだろう。
―――もし5分待って、しん様がベンチに戻ってこなければ。
会って話を聞くくらいしてもいいのではないか、とあいは思い始めた。
あい一人残して他の女性と談笑している信之介への腹いせと、ネネちゃんの「二股かけちゃえば」の一言も頭のどこかにあったのかもしれない。
信之介の背中にじ~っと熱い視線を送りながら、あいは待ち続けた。

だが5分後。

そのベンチにあいの姿はなかった。




【あとがき】
とりあえずあいちゃんはしんちゃんと同じ高校に通っている、ということで。
しんちゃんは剣道部員にしてみました。

後編に続くのであります・・・。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。