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土そよ小話 1 [いろいろ小話]

銀魂の小話です。
土方さんとそよ姫のお話。甘い上に長いですよ~。

 ↓ からスタートです。

ある朝、そのニュースは全宇宙を駆け巡った。
『そよ姫降嫁』
新聞の一面を堂々と飾った文字に、世の男性はこう嘆いたそうな。

「間違いだったらいいのに!!」



「ほい。」
「あ?」
真撰組屯所の縁側である。靴を履こうとしていた土方の頭に、飄々とした沖田の声と共にぱさっと何かがのせられた。
「今日の新聞。まだ読んでねえんですかい?」
「・・・ああ。」
土方は新聞を取り、広げる。
『そよ姫語る。「私、今週お嫁にゆきます。」』
目に飛びこんできたその文字と写真に、土方は少し目を細めた。
「『お相手の方は普通の公務員です。』、か。姫さんの口からはっきり聞けば、世の野郎共も諦めがつくってもんでさあ。」
「・・・・・・。」
一年前のそよ姫降嫁のニュースは全世界、いや全宇宙を震撼させた。
もともとそよ姫は、全宇宙に絶大な人気を誇っている。おしとやかで可憐、優しくて美しい。見合い話は数知れず、来訪した天人は必ずと言っていいほど姫との謁見を望んでいた。アイドルのように目でわかるような人気ではないが、理想の女性像としてそよ姫は皆の心の中にあった。
そのそよ姫の結婚。大騒ぎにならないわけがない。
「相手はどこのどいつだ」
「いつどこで知り合ったのか」
「○○家の嫡男が相手ではないのか」
「それとも将軍家が民間に取り入るための政略結婚ではないのか」
などなど、さまざまな憶測が流れてきた。
当事者の将軍家は徹底してノーコメントの姿勢を貫いてきたが、降嫁も今週となり、マスコミの最後の足掻きとも言うべき悪質極まりない記事も出始めた。
あることないこと書きたてられ看過できない状況となったため、急遽そよ姫のコメント発表と相成ったのである。
もちろん結婚相手の名前は伏せて、であるが。

「まあ確かに“公務員”ですが、普通ですかねぇ?」
沖田は楽しそうに横目で土方を見た。くくく、という笑い声が土方の癇に障る。
「暴力男だし、瞳孔開きっぱなしだし、マヨラーだし、短足だし、親父くさいし、痔もちだし、」
「誰が痔もちだ!」
「オヤ?廊下に落ちてたプリザ、土方さんのじゃないんですかい?」
「違うわ!廊下に落ちてたってだけで、なんで俺のなんだ!」
「いや~、そろそろかなぁ、って思いやして。」
「何だよそろそろって!大体その理屈から言ったら近藤さんが先だろうが!」
「まあまあ、たかが痔でそんなにぎゃんぎゃん吠えなすんなって。」
「何だと!てめえが言い出したんじゃねえか!!それに痔じゃねえっつてんだろ!!」
「お~っと土方さん、もうこんな時間。今日は城に行く日なんでしょう?」
「・・・・・・。」
「姫さん待ってますぜ?」
土方はギロっと沖田をにらみ、縁側から立ち上がった。沖田はさわやかな笑顔で土方の後姿に手をふり、こう言った。
「城での最後のデート、ごゆっくり~。」
「お前、もう口開くんじゃねえ!!」



「昨日荷物が届きましたので、部屋に入れておきました。」
「ありがとうございます。」
そよ姫はそう言って柔らかく笑った。
そよ姫の自室である。畳二畳分の距離をとり、土方とそよ姫は正座で向かい合っていた。
「ずいぶんと少ない荷物でしたね。」
届いた荷物はダンボール3箱。真撰組屯所の隣に建てられた新居に、土方一人でも運べる重さであった。
「ここにあるものは私のものであっても私のものではないですし、それにお兄様が必需品以外はこのままここに置いておいたほうがよいと・・・。」
『この部屋にあるものは、“軍の妹姫”であるが故の荷物であって、そよ個人の所有物と思ってはいけない。もとをたどれば国民の税金で賄われた品々である。それを嫁入り支度の私物として持参するのは、おかしな話ではなかろうか。これからは民間人として生きていくのだから、些細なことにこそ気をつけねばならぬ。』
そよ姫は、将軍である兄のそういう志にひどく感動していた。
だが。
土方はそよ姫に対する将軍、というか城の住民達の溺愛ぶりを頭に浮かべ、思う。
―――この部屋をこのままにしておくってことは、「いつでも帰って来い」って意味なんじゃねえのか?
そよ姫降嫁が発表となったこの一年、土方に対する城の住民達の態度は日に日に悪化する一方であった。
まるで盗人でもみるかのような視線、明かに邪魔者扱い。
姫が「じいや」と慕う老人にいたっては、殺気を漂わせ、隙あらば土方に切りかかろうという状況であった。

「そうそう、土方さん。私“おふくろのあじ”というものを一通り作れるようになりました。」
土方の胸中を知らないそよ姫は、どことなく誇らしげに微笑んで言った。
「そうですか。楽しみですね。でも俺は肉じゃがにはちょっとうるさいですよ?」
「肉じゃが、ですか?肉じゃがはおやつではないのですか?」
「へ?」
「あの、肉じゃがは3時のおやつに食べるもの、って聞いたのですけど・・・」
「・・・誰に?」
「神楽ちゃんに。」
そよ姫はきっぱり言った。
「・・・ちなみにおふくろの味のメニューは?」
「ええと、エビチリにチャーハン、餃子、シュウマイに天津丼、それから・・・」
「あ~もういいです。」
土方はこめかみを押さえた。
沖田がこっそりそよ姫を城から連れ出していたのは知っていた。そして“親友”神楽と会っているだろうことも、なんとなく予測はしていた。そよ姫が城下の生活に早く馴染めるようになるには、自分よりもあの2人の方が適任であろうと、土方は黙認していたのだ。
しかし、神楽が料理に関まで口出ししてくるとは。予想だにしていなかった。
―――ってーと何か?あいつは毎日手料理を食いにくる気なのか?いや、一人で来るとは思えねえ。ぜってえあのドSと来やがる・・・!俺達が新婚ほやほや、いちゃいちゃし放題、エプロン姿に膝枕に・・・
「あの、土方さん?」
突然黙り込んだ土方に、そよ姫は控えめに声をかけた。
「・・・なんでもないです。」
妄想が膨らみかけていたところに声をかけられ、土方は少々頬を赤らめた。コホンと咳払いをし、姿勢を正して、
「ところでそよ様。」
話題を変えた。

「俺の名前は御存知ですか?」
突拍子もない質問にそよ姫は目を丸くした。
「はい。土方さんでしょう?」
「そうではなくて、」
「え?もしかして“どかた”さんだったのですか?どうしましょう、私今までなんて失礼なことを・・・。」
本気でうろたえ始めるそよ姫に、土方は数センチにじり寄り、
「いやいや“どかた”じゃないです。“ひじかた”です。そうではなくて俺のフルネーム、というか下の名前です。」
「そういう意味でしたの。もちろん存じております。土方十四郎さま、ですよね?」
十四郎さま、という甘い響きに胸の高鳴りを覚えつつも何とかそれを抑え、土方は続けた。
「安心しました。ではそよ様の新しい名前って言うのもおわかりですよね?」
「・・・はい。“土方そよ”になります・・・」
そよ姫は頬を染め、小声で答えた。
「・・・よろしい。俺も土方、あなたも土方となるわけです。ということは、だ。俺に対し“土方さん”という呼び方はおかしいと思いませんか?」
「そ、う、ですね・・・。」
そよ姫は土方の言わんとしている事がわかってきたらしい。
「でも、そう、急には・・・。」
「急といっても、今週中にあなたは“土方”になるのですよ?」
耳まで赤くして、そよ姫は俯いてしまった。想像どおりのやり取りに土方はほくそ笑む。
「では今から練習をしませんか?」
「え?」
「俺の名前を言う練習。」
「・・・本人を前にしてですか?」
「そうです。」
「・・・それは練習とは言わないのでは・・・?」
「まだあなたは“徳川そよ”だ。“土方そよ”になった時が本番です。だから練習と言って良いんです。」
沖田がいたらツッコミが入るであろう、なんとも強引な屁理屈である。
土方の言葉に小首をかしげながらも、そよ姫はうなづいた。そして小さく深呼吸する。
「・・・・・・・・・さま・・・」
「え?」
「・・・・・・ろう、さま・・・」
「聞こえませんよ。」
「~~~~っ・・・」
「そよ様?」
土方は、膝の上ぎゅっと握られたそよ姫の手をみて微笑んだ。
名前一つ口にするだけで、なんと愛らしいことか。
「そ、それなら土方さんはどうなのですか?」
そよ姫は悔しいのか、上目遣いに土方を睨もうとしているが、頬が赤いままなので可愛らしさを増しただけであった。
「は?」
「わ、私は“土方そよ”になるのであって“様”というのは、」
「そよ」
土方があっさり口にすると、そよ姫は一瞬にして固まった。
「俺はもう何度も心の中で呼んでいましたから。今更練習なんて不要です。」
そよ姫はこれ以上ないくらい赤くなる。土方は喉の奥で笑った。

「さあ、そよ様、練習を。」
「・・・土方さんって・・・」
「はい?」
「・・・土方さんっていじわる!!」

その言葉に、今度は土方は声に出して笑った。




【あとがき】
多分初めて書いた二次創作・・・。うひぃいぃい~(><)
数年前たしかそよ姫誕生日祭りに参加したときにアップしていただいた小話です。
お題は、「間違いだったらいいのに」でした。
土方さんといえば、公式はみつばさんでしょうけども、わたしは土そよ好きです。
再登場を熱望!イエス!
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