SSブログ

Fate/Zero小話 [いろいろ小話]

Fate/Zeroの雁夜さんと桜ちゃんの小話です。

暗いです。ラブ要素はないです。

 ↓ からスタートです。

桜が舞い降る春。
花火が鮮やかに咲く夏。
紅葉に彩られる秋。
白雪に埋め尽くされる冬。

―――ああ、世界はこんなにも。



Beautiful World



足を引きずり、一段一段階段をのぼる。
家の中の数十段の階段でさえ、息を切らし、手すりにつかまってのぼるのがやっとだ。
弱り切った雁夜の体であっても、刻印虫は体を貪ることに飽きを覚えない。執念深く、腐りきったマトウの使い魔らしい。
「・・・くそったれが・・・。」
階段を上がりきったところで雁夜は倒れた。
ぜぇぜぇと荒い息を吐くごとに、骨が軋む。
少しでも呼吸が楽になるよう体を仰向けにすると、黒いエナメル靴の小さなつま先が雁夜の目に入った。
「桜・・・ちゃん・・・。」
はにかんで頬を赤らめ、笑ったり、泣いたり、生き生きとした表情で雁夜を見つめていた、遠坂桜はここにはいない。間桐桜の感情のない瞳が雁夜を見ていた。
やがて桜は柔らかい絨毯の上に腰を下ろし、雁夜の頭を膝にのせた。
「・・・は、はは・・・恰好悪いな・・・。」
同意も不同意もせず、桜は雁夜の髪をそっと撫でる。
不意のぬくもりに、雁夜は目を閉じ安堵の表情を少し浮かべた。
「・・・桜ちゃんは・・・優しいな・・・。」
「おじさん。」
「・・・なん・・・だい・・・?」
「好きな人、いた?」
桜からの思いもよらぬ突然の問いに一瞬息を呑んだが、雁夜は「・・・ああ。」と答えた。
深い溜め息のようなその声に、髪を撫でていた桜の手が止まる。
雁夜の脳裏には年上の長い黒髪の女性が浮かんでいた。実らなかった初恋だ。
その後も何度か恋をした。雁夜は長い黒髪の女性に魅かれることが多かった。
「セックスはした?」
「・・・ああ。」
柔らかな肌。暖かなぬくもり。そしてシーツに広がる彼女の長い黒髪が雁夜は好きだった。
結局、誰かの投影。
雁夜が追い求めいていたのは、ただ一人の女性、そういうことだ。
「そう。」
桜の返事は一言だけだった。
しばしの沈黙後、
「・・・大丈夫だよ、桜ちゃん・・・。」
雁夜は小刻みに震える手で桜の手をとる。
「俺が・・・俺が、聖杯戦争に勝てば・・・。」

なにもかも元通りになる。
君には笑顔が戻る。葵さんにも、凛ちゃんにも笑顔が戻る。
やがて君は成長し、誰かを好きになる。
そして、大人になり、誰かの体温を知ることになるだろう。
愛し愛され、子を産み、母となり、ありふれていて、だけどとても貴重で幸せな一生を送る。
大丈夫。
だから大丈夫だよ・・・。

思いは声にならなかった。
音にする体力がなかったためか、それとも声に出来なかったのか。
桜が髪から手を離したときには、雁夜は気を失っていた。
桜は静かに雁夜の頭を絨毯におき、階段を降りはじめる。
行先は蟲蔵。
まっすぐ、その歩みに迷いはなかった。



桜が蟲蔵の扉を開けると、蟲たちは歓喜しているかのように蠢きだす。
それを眼下に眺めながら、桜はワンピースのファスナーを下ろし、全裸になった。
蟲たちをおぞましいと思う。憎いとも。
だが、もはやそれだけではない。
現に桜は自分が笑みを浮かべていることを知っている。
初めて蟲蔵に入れられたとき、桜はあまりの恐怖に気が狂うかと思った。しかし狂わなかった桜は、より一層の地獄を味わうこととなった。
ある日、臓硯は笑って桜にこう言った。
『間桐にふさわしいオンナの器じゃな。』
桜はそっと自分の下腹部を触れる。
意味は今でもわからない。しかし、感覚的に理解している自分もいた。
ワタシハケガレテイル。
そうして蟲たちに身体を委ねた。



桜は雁夜を思う。
被らなくてもいい仕打ちに耐え、あんなボロボロの姿で、「大丈夫だ」と、「救う」と、なぜ言うのだろう。
なぜ抱きしめるのだろう。
雁夜が聖杯戦争に勝てるはずがない。ましてや臓硯になど。
雁夜はどうしてそのことがわからないのか、桜にはわからなかった。
間桐家にいる限り、これからも酷いことをされる。
どんなに泣いても、許しを請うても、汚され続けると、桜はわかっている。
それなのに。
それなのに。
桜はそれを受け入れるであろう自分も想像できた。



桜は自分の中にとても黒い澱みが積み重なっていくのを感じる。
身体の一番奥深く。きっとオンナにとって重要なところ。
到底美しくないものに満たされることに桜は安心する。
美しいものより醜いものに心安らぐ自分に涙し、そして嫌悪する。





桜が舞い降る春。
花火が鮮やかに咲く夏。
紅葉に彩られる秋。
白雪に埋め尽くされる冬。

―――でも、世界はそんなに美しくない。




【あとがき】
Fate/Zeroはバーサーカー陣営を応援してました。
原作小説は読んでいませんでしたがアニメのSNを見ていたので、雁夜さんの願いは叶わないことも知っていました。
おじさんは聖杯戦争に参加するよりも、桜ちゃんの手を取って逃げれば良かったのよ・・・。

もし次におじさんと桜ちゃんの小話を考えるとしたら、幸せ~な話にしたいです。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アニメ

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。