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葛葉ライドウ小話 6 [ライドウ小話]

小話5の変形版です。途中まで一緒ですよ。
伽耶ちゃんは出てませんが雷伽耶~。


よろしければ「続きを読む」からどうぞ~。



「ふあ~、いい湯だなあ~。」
我ながらオヤジ臭いセリフを吐いているという自覚はある。
だが、思わずそう口にしてしまうくらい、槻賀多村の露天風呂はいいお湯だった。
「なあ、そう思わないか、雷堂。」
「うむ。」
俺は頭に載せた手ぬぐいを押さえ、雷堂を見た。
湯気の中でも、相変わらず無表情なのがわかる。しかし、無表情だが不機嫌ではない。雷堂のそんな微細な表情を読み取れるのは、頭脳明晰美男子探偵である俺・鳴海の他にはおるまい。ただし、雷堂の相棒である猫のゴウトちゃんは除く。
だが、こんな天才的な俺にもわからないことがある。それは、
「・・・なんで学帽被ってんの?」
「気にするな。」
いや、気になるってば。露天風呂に入って、なにか頭に載せるっていったら俺を倣って手ぬぐいでしょ。
でもまあ、なにか事情があるのかもしれない。もしかすると悲しい事情ってやつが。放っておくことにしよう、うん。
俺は目線を雷堂の背後に移す。少し離れた岩の上に見慣れたものが置いてあった。
「・・・刀は錆びるんじゃないのか?」
岩の上には雷堂愛用の刀があった。湿気防止のつもりか、布でぐるぐると巻かれている。そんな手間かけるなら、持ってこなければいいのに。
「いつなんどき、いかなることが起きるかわからぬからな。」
雷堂は淡々と答えるが、俺としては山猿が咥えて持って行っちまう可能性の方が高い気がする。いや、でもこれも放っておこう。
学帽といい、刀といい、葛葉一族には俺にはわからん拘りがあるのかもしれない。いや、きっとあるに違いない。あるってことにしておいてくれ。
「それにしても、こんないいお湯、俺たちだけで独占しちゃって贅沢だよな~。」
ぐるっと見まわすと、今、この場所には、俺と雷堂の二人だけ。
たまたまなんだろうけど、これも幸運ってやつ?俺の日ごろの行いが良いからだ。そうに決まっている。
俺は気が緩み、つい、こんなことを口走ってしまった。
「そうだ、今度、伽耶ちゃんも連れて来よう。」



大道寺伽耶ちゃん。
セーラー服がとてもよく似合う美少女で、雷堂とは少なからず思いあう仲だ。
雷堂の後見人としてはなんとかしてやりたいところなんだが、こういうのは本人たちの問題だ。
大人は若者を黙って見守るのみ。『ああ歯痒いったらありゃしない』なんて言ったりして、若人の苦悩を温か~く見守るのが俺たち大人の役目なのだ。
「そういや伽耶ちゃん、ずいぶんと髪伸びたよな。」
あの事件後、短かった髪はもう肩に届くくらいの長さになっていた。短い伽耶ちゃんも可愛かったけど、やっぱり長い髪がいい。俺は断然そう思う。
「伽耶ちゃん、温泉に来たら湯に髪がつかないように髪の毛をあげるだろうな、こう、細い指で髪をくるくるっと巻いて。雷堂、女の子の指って、ときどき男の俺たちには真似できない不思議な動きをすると思わないか?」
俺は目を閉じ、カフェーの女の子たちが店の隅っこで、あっという間に髪の毛を結ぶ様を思い浮かべた。
「伽耶ちゃんは色が白いから、温泉に入ったら頬が赤くなって、きっと林檎みたいになるぜ。」
ああ、それはとてもいい。
「湯気の中、浮かび上がる美少女。赤みのさした頬、白い首筋。そして項・・・。そりゃあもう、色っぽいだろうな。」
「・・・そうだな。」
・・・・・・・・ん?「そうだな」?
「伽耶さんも日頃の疲れが溜まっているだろう。今度、我が誘ってみる。」
雷堂はそう言って二回ほど頷いた。



あれ?
俺は首を捻った。
おかしいな、「な、何を言うのだ!伽耶さんと二人で温泉など」とかなんとか慌てふためく雷堂を、「俺は別に二人きり、なんて言ってないぜ?」と、茶化してやろうって魂胆だったのだが。
なんだ、この落ち着きようは。雷堂らしくないじゃないか。
「雷堂が誘うのか?いやぁ、それはちょっと伽耶ちゃんも困るんじゃないかな~。」
「我が誘うとどうして困るのだ?」
「雷堂、忘れたの?ここ混浴じゃないか。」
ふむふむ、自分で言いながら納得した。
雷堂は、この露天風呂が混浴ってことがきっと頭から抜けていたんだな。だから、あんな冷静に答えられたわけだ。
「いや、忘れていない。」
なに~!?
「混浴だとなにか問題があるのか?」
雷堂はしれっとした顔で尋ねてきた。大ありだ~!!
「いや、だって混浴って読んで字の如し、男女混ざった浴場ってことだぜ?男も女も真っ裸なんだぞ?」
「風呂なのだから当たり前だろう。」
雷堂は何をいまさらと少し呆れたように言う。
「だ~か~ら!伽耶ちゃんも裸なんだぞ!」
「風呂なのだから当たり前だと言っているだろう。鳴海さんは何をそんなに興奮しているのだ。」
ええ、たしかに俺は慌ててますけど!慌てふためいてますけど! お前はなんで冷静なの?
雷堂は視線を空へと向けた。
「そう言えば、葛葉の里でもいい源泉があった。田舎だから、むろんこのように整った設備などない。岩風呂だ。だが、湯に疲労回復の成分があるらしく、畑仕事を終えた百姓たちがよく浸かっていた。」
懐かしそうに雷堂は語る。
ほうほう、そうなのか、なんて頷いている場合ではない。
「もしかして・・・混浴?」
「岩風呂と言っただろう。男女の仕切り板などあるわけない。」
気のせいか、雷堂は物わかりの悪い子供に教えるような口調になってきたような・・・。
「畑仕事は尊い仕事だ。百姓が来たら、我は場所を譲ることにしていた。」
一緒に入ってたのかよ!!
「背中を流し、時には肩を揉むのも吝かではなかった。」
雷堂、お前、里に戻ってそんなことしてたの!?っていうか修行はどうしたの!?
・・・・もう何に突っ込むべきかわからなくなってきた。
まさか雷堂が混浴を経験済みとは、俺の抜群の推理力をもってしても考え付かなかった。
葛葉の里恐るべし!なんと先進的な里なんだ!

「・・・さっきから鳴海さんはなにをごちゃごちゃと・・・。・・・ああ、そういうことか。」
訝しげに俺を見ていた雷堂の目がなにやら細くなった。あ、なんか嫌な予感・・・。
「葵鳥だな。」
・・・・は?なぜにタヱちゃんの名前が出てくる?
「日ごろの礼に葵鳥の背中を流してやりたい、そういうことなのだろう?」
なんでそうなる~!!
「あのな、雷堂・・・」
俺はほとほと呆れ果てて、手ぬぐいを頭からとった。
「日ごろの礼ってさ、むしろ逆だよ、逆。俺がタヱちゃんのお世話をしてあげてるでしょ。」
「照れることはないぞ、鳴海さん。」
ばしゃっと雷堂が風呂から上がった。なぜか自信たっぷりの声だ。
「我が今から葵鳥を呼んで来てやろう。」
「はあ!?」
「たまには我も鳴海さんに恩返しせねばな。」
「いや、恩返しじゃないから!嫌がらせだから!」
「まあ我に任せておけ。」
十四代目葛葉雷堂、聞く耳持たず。
濡れた岩の上を滑るように移動し、あっという間に温泉の脱衣所へと姿を消した。
「・・・・・・・。」
残された俺に、冷たい風が吹き抜けた。

まずい。
これはまずい。
雷堂がタヱちゃんに何を言うかわからんが、非常にまずい状況だ。ぼ~っとしている場合じゃない!一分一秒を争う難事件だ!
「雷堂、ちょっと待て!」
俺も急いで風呂から上がり、滑って転ばないよう気をつけながら小走りに脱衣所へ急ぐ。
「おい!」

脱衣所のガラス戸をひいたとき。
まさに、タヱちゃんがそこに現れた。
タヱちゃんの背後には雷堂。
俺の見間違えじゃなければ、奴は親指をぐっと立てていた。
雷堂の名を叫ぶよりもまず、俺は自分の置かれている現状を省みた。
―――俺はついさっきまで温泉に浸かっていた。雷堂を追いかけて大急ぎでここまで来た。
つまりだ。
俺は真っ裸だ。

目の前のタヱちゃんの顔が真っ赤になり、わなわなと震えるのがわかった。



数時間後、旅館を出る際、両頬に赤い手のあとをつけた俺の顔を見て仲居さんたちがクスクス笑っているのを、俺は背中で聞いていた・・・。




【あとがき】
雷堂バージョンでございました。
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