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イリヤさん小話 [いろいろ小話]

イリヤ・アルカディアさん。
主人公のカナタを音楽の道へと導いた人であり、リオの喇叭の師匠であり、フィリシアの命の恩人でもある。
その正体は、アルカディア大公殿下の第一皇女(父親が大公なら公女が正しいのかしら・・・)。
有名な戦車のりで、ヘルベチアの勝利の女神。
人々から大変な尊敬を受けていたが、川に溺れそうになった子どもを助け死亡。
『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』のキーパーソンであります。


第十話を見て、ふと思い浮かんだイリヤさんの小話です。
想像でいろいろ書いております。
イリヤさんの性格も、あくまでも想像です。


一瞬のことだった。
子どもが無事岸に上がり、それに続こうと岩に手をかけたときだった。
するっと手が滑った。
岸にいた救助の人たちは、手を伸ばしたまま、ぽかんとしていた。
おそらく自分も同じ表情をしているんだろうな、とイリヤは思った。

それは一瞬のこと。イリヤは川の濁流にのみこまれた。



イリヤの母親は、厳しい人だった。賢く、誇り高い人だった。
皇女に生まれたからには国民の見本となるような人物になりなさいと、イリヤは幼いころから母親から言い聞かせられ、育った。
彼女は自分の夫に対しても同様だった。家庭でも仕事でも立派な人物であることを求められ、大公は次第に妻とともにいるのが息苦しく感じるようになった。
イリヤは自分の父が母以外の女性に子どもを産ませたと聞き、さほど驚かなかった。
しかし、母親に向かって「お前といると安らげない」と口にしたのを耳にしたとき、イリヤは父親に対して初めて憤りを感じた。
母は父に国民から尊敬されるような王になってほしかっただけなのに。そのために敢えて厳しい言葉を選んでいたというのに。
自分の無様さを棚に上げて、他の女性に逃げていく父親にイリヤは幻滅した。
腹違いの妹に会おうと思ったのも、最初は父に対する嫌がらせのようなものだったのかもしれない。
おそらく父親は自分が妹に会いに行くことを快く思わないだろう。
だから敢えて会いに行くのだ。
突然の訪問に、父親の愛人は恐縮し、床につくくらいに頭を下げしばらく動かなかった。横には母親の袖をぎゅっと掴んでいる妹がいた。
事情はわかっていないだろうに、その目は許しを請うているようだった。
妹は可愛らしかった。何度も足を運ぶうちに、イリヤを姉として慕ってくれるようになった。
父親の愛人も、話をしてみるととても気持ちの良い人だった。
イリヤは次第に2人に純粋に会いたいがために、この家を訪れるようになった。



戦争は一向に終わる気配がなかった。
イリヤは戦車でいくつも戦場を駆け抜けたが、愛する祖国はひどい有様になっていく。
めくれた大地、崩壊した建物、仲間を失くした兵士、家族を失くした者たち。目を覆いたくなる光景だ。
そんな中、父親から“大公”として“皇女”へ話があった。
停戦条件としての政略結婚。
嫌だという気持ちはなかった。皇女として、選択肢の一つとして挙がってもおかしくないとイリヤ自身考えていたことだ。
イリヤの心に浮かんでいたのは父親に対する静かな軽蔑であった。
イリヤが深窓の令嬢として暮らしてきたならば、国のために自己犠牲に酔いしれ、第三后妃の地位であろうと喜んで嫁いだかもしれない。
だがイリヤは戦場を知っていた。経験してきた。
自分の身一つを差し出して終わる戦争のために、街は破壊され、仲間は負傷し、国民は傷つき、泣いたのか。
―――馬鹿にするな。
娘を人身御供にする父親。若い后妃を迎えることで戦争をやめる敵国王。
どちらが政略結婚の申し入れをしたのかはわからない。
しかしイリヤにとっては、その条件を呑んだということが、許しがたいことだった。
一度戦火の中を走ればいいと思ったが、それはすぐに思い直した。
安全な場所で戦争で論じるだけの人物が、戦場に出て役に立つとは思えない。
父親の身を心配したわけではない。
戦場で命を散らしでもしたら、大公は『英雄』になる。
あの臆病な父親が英雄になるなど、イリヤにとって笑止千万。
自らが戦場で命を落とすほうがよっぽどいい、とイリヤは自嘲した。



ごぼっと肺から空気が逃げていく。
もう助からない、とイリヤはぼんやりと思う。
ここで自分が死んだら、ヘルベチアはどうなるのだろう。
自分と言うカードがなくなったあと、父親は状況をどう捌くのだろうか。どう捌ける?
・・・イリヤは少し愉快な気持ちになった。
ただ一つ、心配は妹のことだった。
まだ幼い妹は、親しい姉の死に泣くだろう。傷つくだろう。
それどころかいずれは彼女が父親のカードになりうる存在だ。
大丈夫だろうか。第3承継人の地位から逃げ出したいと思うだろうか。
・・・だがそれはあの父親の血をひいてしまった運命だと、諦めてもらうしかない。
空から見守っていよう。

イリヤは水中から空を見ていた。
最期に目にする風景だ。
―――青い空だったら良かったのに。
喇叭が響き渡るような青い空だったら。
・・・そう思った。
そして目を閉じた。
死への恐怖心は不思議となかった。




【あとがき】
ひとつ前の日記のとこに書いた、『イリア皇女の父親への復讐』みたいなものを小話にして見た結果がこれです・・・(^^;)
最初箇条書きみたいにしていたのを小話っぽくしてみたんだけど、そのままにしておけば良かったかも(笑)。

で、イリアさんですが、なんとな~く優しさ故に亡くなったと言うだけではないような気がするんですよねぇ・・・わたしは・・・。
彼女は戦火を駆け巡っていたと同時に、首都に戻ったときにお偉いさん方が会議室でああだこうだと話すばかりでなんの進展もみられないのを目にしていたはず。
やっとのこと休戦になるかと思えば、敵国に嫁げと言われるし。まあ、協定にはほかにも色んな約束事がついていたと思いますけどね。
なんにせよ、父親に対しては幻滅する一方だったんではないかなぁ・・・。
なので、彼女の死は父親に対する意趣返しの意味もあったのではないかと、そう思った次第なのであります。
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