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しんあい小話 2 [いろいろ小話]

くれよんしんちゃんの小話です。
高校生のしんちゃんとあいちゃんのお話の後編になります。

 ↓ からスタートです。

鞄を抱え、あいはズンズンと勇ましく歩いていた。
――――ばかばかばかばか!しん様のばか!
結局信之介は戻ってこなかった。
それどころか、一度も振り返らず店員とのお喋りに夢中で、あいを気遣う素振りも見せなかった。きっと今だってあいがベンチから離れたことに気づいてないに違いない。
――――もう、知らないっ!
信之介がそのつもりならあいにだって考えがある。
これから会う男性の『話を聞く』だけでなく、もしその人があいを気遣ってくれるような優しい男性なら、お付き合いを考えてみてもいいとまで思うようになってきた。

さっきまでいた場所と噴水を挟んで対角線上あるベンチに、一人の男子学生が座っていた。
あいの姿を目にすると、口を“あ”の形にしてすぐに立ち上がる。
「来てくれたんだね。」
にっこり微笑みかけられ、あいは会釈した。
いざ本人を目にしたら、あいの頭は急激に冷めてきた。彼の笑顔に少し罪悪感を覚えたからである。手紙を見てここに来たというよりも、信之介への当てつけという不純な動機に、あいは後ろめたさを感じ始めていた。
―――・・・お礼を言って、そしてきちんとお断りしましょう。
そんなあいの心中など知らず、男子生徒は有頂天になっていた。
「いやあ、来てくれて本当にうれしいなぁ、酢乙女さん。」
「・・・ごめんなさい!」
男子生徒に喋らせまいと、あいは頭を下げた。
「お手紙をいただいてすごく嬉しかったのですけど、でも、あいは、ずっと前から好きな人が・・・。」
「・・・ふぅ~ん、そうなんだ。」
ずいぶんとあっさりした返事に、あいは頭をあげる。男子生徒はあいの先制攻撃にひるんだ様子はなかった。
「・・・で、そいつと付き合ってるの?」
「え?」
「いや、だって普通彼氏ならそう言うでしょ?今、酢乙女さんが言ったのって『好きな人』だもん。ってことは、別にそいつと付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
あいは返答できなかった。
幼いころからあいは信之介に気持を伝えている。しかし信之介の気持ちを改めて聞いたことなどない。一緒に登校したり、帰ったりはしているものの、今の関係は幼馴染と言った方がしっくりくる。
「やっぱりね。じゃあさ、改めて言うけど僕と付き合わない?」
「・・・は?」
あいは自分の耳を疑った。さっき、ちゃんと『好きな人がいる』と言ったばかりではないか。戸惑った表情のあいを見、
「君って思ってたより、顔に出るタイプだな。」
男子生徒はくすっと笑う。
「君に好きな人がいるってのはわかったよ。でもその彼、酢乙女さんの気持ちにずっと答えてないんなら、脈はないんじゃないかな。」
あいの顔色がさっと変わった。
「ああ、きつい言い方してごめん。でもまあ、とにかく、付き合ってみて、それから僕を好きになってくれても構わないよ。」
「・・・・・・。」
あいは答えられなかった。
男子生徒が思っている以上に、そしてあい自身が自覚していた以上に、『脈はない』という言葉に傷ついていたのだ。俯いてぎゅっと掌を握りしめるあいを見て、男子生徒はちっと舌打ちした。
「だから、僕がいいって言ってるんだからいいじゃん。君だって、ここに来たってことは、ちょっとはその気があったってことだろう?・・・ったく面倒だな。」
男子生徒がいきなりあいの肩を掴んだ。
「きゃっ!」
「それでいいよね、いいよね?」
「い・痛いですわ、放して下さい!」
あいは態度が急変した男子生徒が怖くなり、手を振り払い後ずさる。再び舌打ちの音が聞こえた。
「こ・これ以上ひどいことなさると、大声出しますわよ?!」
あいは恐怖心を抑え込み、きっと相手を睨む。
「じゃあ、実力行使。」
最初とはうって変わった醜悪な笑顔を浮かべ、男子生徒はあいの腕を掴もうとした。

「ジャージロックコーチ?」

間の抜けたのんびりした声が二人の間に割って入った。
「しん様!」
いつからそこに居たのか、信之介は肩には防具袋、左手にはクレープを持って、あいのすぐ斜め後ろに立っていた。
「爪、当たって痛いんだけど。」
斜め下を見ると、あいの腕ではなく、信之介の腕が男子生徒に掴まれている。
「こんな熱烈に爪を立てられても、俺困っちゃうなぁ。」
腰をくねくねさせていた幼稚園時代の信之介の姿が脳裏に浮かび、あいはぷっと吹き出す。男子生徒は突然現れた邪魔者に鋭い視線を投げた。
「君、なに?」
「俺は野原信之介。はい、あいちゃん、クレープ。」
あいは男子生徒の目を気にしながら、イチゴクレープを受け取った。
「なんだよ、クレープって。」
「あっちのワゴン車で売ってる。結構うまいよ。」
「そうじゃない!」
「じゃあなに?」
「僕が言いたいのは、君が何でここにいるのかってこと!」
「あいちゃんが迷子になったから迎えにきただけ。」
飄々と答える信之介に、男子生徒の苛々は頂点に達した。
「・・・そんなに心配なら紐でつないどけよ!」
男子生徒はご丁寧に一度強く爪を立て、信之介の腕を放り投げるようにして指を離した。
頭から湯気を出さんばかりの男子生徒の後ろ姿を見送りながら、信之介は、「クレープ屋はそっちじゃないのに。」ポツリ呟いた。



噴水の前には信之介とあいの二人が残った。
「あの、しん様・・・」
「あの人、あいちゃんの知り合い?」
「え・ええ。」
あいは頷いた。15分前に知り合ったばかりだが、とりあえず知り合いには違いない。ふぅ~んと信之介は気にしているんだかいないんだかよくわからない相槌を打ち、噴水の縁に座る。
「あいちゃん。」
「は・はい!」
「・・・早く食べないと生クリーム溶けちゃうよ?」
あいははっとして信之介の隣に腰を下ろし、「いただきます」と、大きく口を開けた。
「お姉さんに言って、イチゴ多めに入れてもらった。」
「・・・ありがとうございます。」
「さっき一個食べたら美味しかった。」
ちゃっかりしているのは相変わらずだ。
あいはというと、先ほどの信之介の言動を顧み、イチゴとは違うことを考えていた。
―――さっきクレープ屋の女性とお話していたのは、もしかしてあいのために、イチゴを多く入れてくれるよう交渉して下さってたのかしら。親しげに笑っているように見えたのは、単にしん様がからかわれていたのかしら。そもそもしん様があいを公園に誘ったのは何故でしょう。あいに美味しいと評判のクレープをご馳走しようと思ってくれたのかしら。
疑問は尽きない。しかしあいはすべて都合よく解釈し、上機嫌にぱくぱくとクレープを頬張った。

あいがクレープを食べ終わったころ、鞄の中からメール着信音が鳴り響いた。取り出して携帯を開くと、ネネからであった。
件名には『前言』とある。
『本文:撤回!さっき下駄箱でしんちゃんに会ったの。あのしんちゃんが大人しく誰かを待ってるなんて、あいちゃん以外考えられないわ。』
文章の最後には、ウィンクマーク。ネネの茶目っけが、今のあいには少しくすぐったかった。
「緊急?」
信之介があいのメール相手を気にするとは珍しい。どうやらさっきの男子生徒は、しっかりあて馬の役目を果たしてくれたようだ。
「ううん、ネネちゃんからですわ。」
あいは携帯を閉じる。
「『寄り道はしないように』、ですって!」
あいがにっこり笑うと、信之介は眉をひそめ「いったいどこから見てるんだ、妖怪地獄耳おばばめ・・・」と周りを見渡した。




【あとがき】
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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