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亡念のザムド小話 1 [いろいろ小話]

第十二話の録画を失敗してしまった・・・[もうやだ~(悲しい顔)]

ふと思い浮かんだ小話をひとつ。
雷魚が2年前ザンバニ号にいたころの話で、伊周と雷魚、ナキアミの話です。

 ↓ からどうぞ・・・。

―――ザムドとは何か。
待てど暮らせど答えは一向に出てこない。
しかし、そいつとの付き合い方は段々判ってきた、そんな頃。
俺はナキアミを見て思っていた。
『自由に空を飛ぶというのに、なんて不自由なのだろう』と。



ブリッジでのギャンブルの帰り、廊下を歩く俺を呼びとめる声がした。
「おい、雷魚。ちょっと寄ってかないか?」
目の座った伊周に誘われ、断れる人間など俺は見たことがない。

部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、アルコールの匂いが鼻についた。
ざっと部屋を見渡すと、テーブルにはごちゃごちゃと空きビンと空き缶が並んでおり、並びきれなかったものは床に転がっている。本数から想像するに、ひとりで始めてから既に数時間は経っているに違いない。
これが女の部屋か、という感想は置いといて。
嫌な頃合いに誘われたもんだと、俺はほとほと自分の運の悪さに天を仰いだ。
「なにぼ~っと突っ立ってんだ。さっさと酌でもしやがれ。」
「へ~い・・・」
気のない返事も伊周の耳には届かなかったらしい。俺にグラスを渡し、「かんぱ~い」と自分の持つグラスを合わせた。
なにが「乾杯」なんだか。
俺は無言でグラスに口をつける。
横目で伊周を盗み見ると、かなりご機嫌の様子だ。つまりは、かなり、不機嫌。
原因は一つしかない。
―――ナキアミだ。

酒は飲んでも飲まれるな、とはよく言ったものだ。
べろんべろんに酔っぱらった伊周は、あられもない姿どころか醜態をさらしている。コバコやヒノキ丸にこの姿を見せたら、「将来こんな大人になってはいけませんよ」のいい例になるだろう。自分にしか通じないギャグを言っては「きしし」と笑い、ぐいぐい杯を重ねる。戻さないところは、辛うじて褒めてやってもいい。今の伊周は積年の恨みを発散するかの如く、酒を飲みほしていた。
―――よっぽど昼間のナキアミが応えたのか。
と言っても、いつものことだろうに。
伊周の止めるのも聞かず、ナキアミはビートカヤックでどこかへ飛んでゆき、しばし後に傷ついた態で帰還する。
ナキアミを出迎えるのは、腕を組んだ伊周。
言っても聞かない女と、聞かないと知りつつ言わずにいられない女。
俺にいわせりゃどっちもどっちだ。

伊周が煙草に火をつけると、一本の細い糸のような煙が立ち上った。ぼうっと見ていると、
「雷魚。」
「・・・あ?」
不意のうちの伊周の声は、酔っ払いのそれではなく、俺は返事をするのが一瞬遅れた。
俺は煙草の煙から伊周へと視線を移した。
伊周は伏し目がちに煙を吸い込み、そして吐き出す。と同時に、俺にこう尋ねてきた。
「ナキアミが笑ったところ、見たことあるかい?」
「・・・いや。」
ぷはっ、と伊周は吹き出した。
「あの子はね、静かに笑うんだよ。決して声をあげずにね。」
確かに声をあげて笑うナキアミは想像できず、俺は「ほう」と頷く。
「コバコは、太陽に向かって大輪の花をつける向日葵みたいに笑うだろ?ナキアミは月下のもとで咲く月下美人のように笑うんだ。ひっそりと、静かに。」
まるで詩人の表現だな。ああ、そう言えば、こいつは詩集を愛読していたっけ。
「・・・俺も見てみたいもんだ。」
「・・・あたしもだよ。」
・・・・ん・・・?今、こいつ、あたし“も”って言わなかったか・・・?
「・・・あたしもナキアミの笑ったところが見たいのさ。」
伊周がグラスを傾けると氷がガラスに当たる音が響いた。
「・・・見たことあるんじゃないのか?」
「いや。」
やけにきっぱりとした返事だった。
「おいおい・・・。」
さっきのは、見たことがあるような口振りだったじゃないか。俺は呆れ、伊周を見る。
伊周は笑みを浮かべていた。
「きっと、綺麗に笑うんだ。」
皮肉めいたものでなく、楽しげなものでなく、淋しげな微笑みだった。
伊周はグラスを呷る。

「・・・いい加減、もう、泣きやめってんだ・・・」

それから伊周は「くぁ」と欠伸をし、成人男性である俺を目の前に、ソファへ倒れこんだ。
信頼しているとかそういうわけでなく、ただ単に伊周がずぼらなだけのことだ。
「やれやれ・・・」
俺は大きくため息をつき、床に落ちていた伊周のコートを掛けてやり、部屋を出た。



翌日、俺は天心様のところへ行ったのち、ブリッジに足を運んだ。
ブリッジにはアームと伊周がいた。
「よう。」
「おう。」
何も他に語ることはなく、必要以上の視線もない。いつもの挨拶を交わし、俺は椅子に座る。
唐突に伊周が空を見上げた。
右手をかざして俺も空を見上げる。すると、青の中にキラっと光るものがあった。
「・・・あんの、馬鹿がっ・・・。」
ブリッジに伊周の低い声と舌打ちが響く。
青い空にナキアミが乗るビートカヤックの姿が見えた。
迷いなく飛んでいる姿は、なぜかやけに人を居た堪れない気持ちにさせる。
俺は伊周を見た。
伊周は、忌々しげに、しかし愛おしげに、ナキアミを目で追っていた。

―――ナキアミ。
他人ばかりを見るのは、もうやめにしないか。
もう少し、自分に目を向けるんだ。
そして、自分に向けられる視線に、想いに気付け。

「君の世界は、悲しみだけに覆われているわけじゃない。」
俺は両手の親指と人差し指でファインダーを作り、白い軌跡を切り取った。




【あとがき】
第十一話ラストの伊周の頭ぽんぽんと、第十二話のタイトル『暗闇で咲く花』から。
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