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葛葉ライドウ小話 4 [ライドウ小話]

バレンタイン小話で、鳴海さん視点です。
事務所で鳴海さんとタヱちゃん(&ライドウ)がわいわいしてます。


よろしければ「続きを読む」からどうぞ~。



帝都にバレンタイン・デイという風習が流行り出したのは、ここ数年のことだったように思う。
噂によると某チョコレヱトメーカーが自社製品の普及目的の一環で始めたらしいが、毎年大層な盛り上がりをみせているから、2月の行事として定着するのもそう遠い話ではないだろう。
なんせ、右を見ても左を見ても、桃色ハートのオンパレードだ。
甘い香りが充満し、帝都全体の雰囲気もなんとなくほんわかしているような気がする。

かくいう俺・鳴海も甘いものは嫌いではない。
むしろ好きだ。『チョコレヱト、熱烈歓迎中』だ。

しかし。

さっきから立て続けに事務所に来る客は、すべてライドウの客だった。
ちなみに今来ている客は女性ではない。・・・こういうと語弊があるか・・・。外見はオトコだが心はオンナ、まあ、はっきりいってしまえばオカマ。萬年町オカマロヲドの住人、釜鳴さんだ。
「いや~ん、気にしなくていいのよぉ。ライドウちゃんにはいっつもお世話になっているんですものぉ。ほんの気持ちよ、キ・モ・チ!」
例のアドバン事件以降も交流が続いていたらしく、釜鳴さんは腰をくねくねさせ、頬を染めてライドウを見ている。
ライドウが学帽の鍔を軽く下げ感謝の意を示すと、釜鳴さんは「またオカマロヲドに顔見せに来てねん。」とウィンクを投げ、去って行った。

俺は机で頬杖をつきながら思った。
・・・おっかしいよなぁ。
この事務所の主は、俺よ?ライドウが日夜帝都のために働いているのは、俺の指示あってのことなのよ?ライドウの働き、すなわち俺の成果でもあるはず。なのになんで俺を素通りしてライドウなの?
・・・そういや、昨日の竜宮の女将もそうだったっけ。嫌なこと思い出しちまった・・・。
銀座方面に用事があるついでに竜宮に寄ったら、チョコレヱトを渡されたので俺は「いやぁ、悪いねぇ~」とお礼を言ったわけよ。そしたら、「違うわ。これはライドウ君に」、だって!しかも真顔でさ。そのうえ俺には「ツケを支払ってもらったときにお渡ししますから」、だってさ。なに、それ。バレンタインデーって何かと引き換えなの?
あまりにも理不尽だったから、そのチョコはまだ俺のコートのポケットに入れたまま。
ライドウにはもちろん内緒だ。

・・・なんだか我ながら淋しい奴に思えてきた。
でも俺だってなにもないわけじゃないさ。
俺は抽斗をあけて、唯一もらったチョコレヱトを眺めた。
これはついさっき、学校帰りの大道寺伽耶ちゃんから頂いたものだ。
いや、ライドウのついでだってことくらいわかってるさ。
でも「鳴海さんには大変お世話になっておりますので」な~んて折り目正しく渡されちゃったりすると、悪い気はしないんだよな。おまけに、伽耶ちゃんの肩越しにいつも以上に無表情のライドウの顔が見えちゃったりなんかしちゃったもんだから、ちょっとばかし気分も良かったりするわけだ、これが。
ライドウだって、伽耶ちゃんからちゃんと貰っていたさ。
俺にくれた既製品ではなく、いかにも手作りといった包みの贈り物を、ね。
もしかするとあれはチョコがけの大学芋かもしれないな。あとで何個かせがんでみよう。

「こんにちは~。」
おや、この声はタヱちゃん。
「いらっしゃい。」
「ふぅ、疲れた~!鳴海さん、珈琲ちょうだいっ!」
「・・・だから、ここはカフェーじゃないって何回言えばわかるの・・・。」
苦笑しつつ珈琲を淹れてあげる俺ってば紳士だ。
「だって今日は銀座で江戸川先生のインタビューと、工人と役人の賃金交渉の現場取材もしてきてくったくたなんだもの!」
タヱちゃんは帽子を脱いで、ソファに沈み込む。俺は珈琲をテーブルに置いて、タヱちゃんの正面に座った。
「そりゃまたお忙しいこと。八面六臂の活躍じゃないか。」
「八面というよりは三面六臂ってところだけどね。」
タヱちゃんはそう言って珈琲に口にし、ふぅと一息ついた。
「あ、そうだ、さっきデパートでチョコ買ってきたんだ。」
「チョコ?タヱちゃんが?」
俺は少なからず驚いた。
「なによお、その驚きよう。」
「いや、タヱちゃんは『女性が男性に尽くすように仕向けられたイベントなんて論外よ!』とでも言うのかと思ってた。」
「ふふ~ん、鳴海さんもまだまだ甘いわね。」
タヱちゃんは人差し指を左右に振り、にやっと笑う。
「いいこと、たしかに一見女性が男性に奉仕しているかに見えるバレンタイン・・・。プレゼントをする女性の姿は、男性にとっては“甲斐甲斐しく傅くオンナ”として見えているのかもしれない・・・。でも実態は、数多いる男性の中から、これぞと思う人を女性が自分の目で選んでいるわけ。つまり、女性主体のイベント、それがバレンタインなのよ!」
握りこぶしを作ってまで力説するタヱちゃんに、俺は「おお~」と思わず拍手をした。
「・・・というわけで、みんなで食べましょ。」
「・・・は?」
タヱちゃんは急に鞄をがさごそと漁りだして、綺麗に梱包された箱をいくつか取り出した。
「はい、これチョコレヱト!ライドウ君もゴウトちゃんもどうぞ!」
ポンポンと箱を手渡され、顔を見合わせる俺とライドウを横目に、タヱちゃんは箱を開けていく。
「二人も早く!」
タヱちゃんに促され、俺たちは梱包を解いていった。
「う~ん、並べてみると、結構壮観ね~!」
テーブルには色とりどりのチョコレヱトが並んだ。こげ茶色、ピンク、白、緑、黄色、オレンジ・・・。形も丸いものから四角いもの、ごつごつした形のものまである。
「さあ、では頂きましょう!」
「頂きましょう・・・って、今から食うの?」
「もちろん!疲れた体と頭脳には甘いものが一番って、こないだインタビューした大学教授が仰ってたもの。」
タヱちゃんはそう言って、チョコを一粒つまみ「美味しい~」とほっぺたを抑えた。
・・・真面目に話を聞いていた俺が馬鹿だった。タヱちゃん、単に自分でチョコレヱトを食べたかったんじゃないか・・・!
ふと視線を感じると、ライドウが微妙な表情で俺を見ていた。おいおい、やめてくれよ、そういうの。
俺は大きく息を吐きながら、苦笑する。
「ライドウ、折角だから御馳走してもらおうぜ。」
俺もタヱちゃんに倣ってチョコを口に放り込んだ。うん、たしかに旨い。俺を見てライドウもチョコを口にし「美味しいです」と言った。
「でしょう~。こうやってみんなで食べるのも悪くないわよね。」
タヱちゃんは満面の笑顔だ。
まあ、女性主体のイベントというならば、女性の喜ぶようにしてあげるのが男ってもんだ。
今日はタヱちゃんのやり方にお付き合いしましょう!
・・・そうしてチョコレヱト・パーティは、タヱちゃんのお腹と体と頭脳が満足するまで続いたのであった・・・。



俺とライドウがソファに置いてあった二つのチョコに気づくのは、翌日のことである。
『鳴海さん江』と書かれたカードを外し中を開けると、チョコに書かれた『義理』の二文字が目に飛び込んできた。
俺は大爆笑だった。




【あとがき】
ちなみにライドウへは『これからもよろしくね』、かな(^v^)?
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