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しんあい小話 3 [いろいろ小話]

バレンタインの小話で、くれよんしんちゃんのしんあいです。
しんちゃんたちは高校生になってます。

ちなみに、しんあいと書きながら、しんちゃんは出てきません(笑)。
あいちゃんとネネちゃんのお話です。

 ↓ からスタートです。

場所は酢乙女家厨房。
二人のうら若き乙女がエプロンを掛け、腕を組んでテーブルに並んだ様々なキッチン用品を睨みつけていた。
「『凝りすぎた』・・・これが去年の反省点ですわ。」
あいがしかめっ面でぼそりと言う。
「たしかにそうね。去年は初めての手作りチョコだったから、気合いを入れすぎちゃったのよ。」
ネネが神妙な顔つきで頷く。
「何事も“過ぎる”ということは良くない。」
あいも頷く。
「今年はシンプルにいきましょう。“シンプル イズ ベスト”、ですわ!」
あいとネネは顔を見合わせ、もう一度深く頷いた。
「決戦は日曜日!」

時は2月。
バレンタインデー直前の土曜日の出来事である。



「・・・終わってしまいましたわ・・・」
チョコレートを冷蔵庫に入れ、エプロンを外し椅子に座ると、あいは頬杖をついた。
“シンプル イズ ベスト”と誓った通り、今年のバレンタインチョコレートはチョコを湯煎で溶いたあと、ハート型に整えるだけに留めた。もちろん、あいはチョコレートの表面に「しんさまLOVE!」の文字を入れるのは忘れなかったが。
去年はホワイトチョコを重ねたり、チョコパウダーを振りかけたり、色々手の込んだものを作ったので、今年のチョコレート作りは幾分物足りなく感じたのかもしれない。
「何言ってるの、あいちゃん!まだ包装という大仕事が残ってるのよ!」
と、ネネはテーブルの脇に置かれた包装紙とリボンを指す。
「そうですわねぇ・・・」
あいは気のない返事をした。

ネネは本命チョコを作ったわけではなかった。去年あいが信之介に手作りチョコを渡すと聞き、便乗して義理チョコ作りに参加し、今年もまた同じく便乗したのだ。
実はあいの腕前を心配していたというのもある。
大概“お嬢様”という括りの少女は料理下手だと相場が決まっている。自宅に料理人がいるのだから自分で料理する機会もないだろうし、必要に迫られることもないから、それは別に責められる類にモノではないとネネは思う。
去年のあいは「絶対に手作りチョコをしん様に渡す」と言ってきかなかった。それまでいくら有名ショコラティエのチョコレートを贈っても、信之介は大して感激をしなかったのが理由らしい。ネネにしてみたら、チョコビを贈った方が信之介は喜んだのではないかと思ったのだが、それは言わないでおいた。
そういうわけで、ネネは改めてあいの料理の腕前というのを考えることになった。
舌が肥えているのは確かだ。
だが、腕の方はどうか。
いくら悪友とはいえ、幼稚園のころからの付き合いの信之介に入院するような目には合ってほしくなかった。
しかし、意外や意外、あいはなかなかの料理上手だった。手際良く調理をし、その一方でテキパキと片づけをこなす。あいの方がよっぽどもたもたしていたくらいだ。
あとで酢乙女家のメイドに話を聞くと、料理だけでなく洗濯・掃除と、ひととおりの家事はお手の物らしい。さすが、幼稚園のころから信之介と結ばれることを夢見ていただけのことはある。あいは信之介との甘々の新婚生活を想定し、日々花嫁修業に努めているのだ。

「そういえば、去年しんちゃんはいくつチョコレートをもらったのかしら。」
ネネが一人ごとを言うと、「4つですわ」とあいは即答した。
「4・・・。なんて嫌な数字なのかしら!10や20だったら義理チョコって思えますけど、4ってなんだか本気っぽい数字ですもの・・・!」
どうやって調べたのかしら・・・とネネは呆れたが、あいのボディガードの黒磯が当日信之介を影から見張っている姿が容易に想像できた。
「でもマイナス1にしてもいいんじゃない?あたしは義理であげたんだし。」
「あら、ネネちゃんのチョコはもとから数に入れてませんわ。」
きっぱり言うあいに、ネネは「あ、そう・・・」としか言えなかった。
「ところでネネちゃん、マサオ君にチョコレートをあげないんですの?」
「もちろんあげるわよ?しんちゃんにだってぼーちゃんにだって風間君にだってあげるのに、マサオ君にだけあげないなんて、いくらあたしでもそんなひどいことしないわよ。」
「いえ、その・・・義理って意味ではなくて・・・」
あいは何故か言い淀んでいた。
「あ、うん、そうね、義理っていうか『友チョコ』だよね。・・・っていうより『腐れ縁チョコ』だよね。」
あははとネネは笑った。
「・・・ネネちゃんは・・・好きな人、いないの・・・?」
突然の質問に、ネネはきょとんとした表情をした。
「今はいないなぁ。いたら、あいちゃんに言ってるって!あ、もしかして、あたしがしんちゃんのこと好きかもってまだ思っているの?ないない!絶対ないから!」
ネネは幼稚園のころ、あいに目の敵にされたことを思い出し、吹き出した。
「それにねぇ、あいちゃんとしんちゃんが早くまとまってくれないから、心配で自分のことなんて考えられないわよ。」
ネネがにやにやして言うと、あいは頬を染めた。
「そのあと、あいちゃんにお金持ちで素敵な人を紹介してもらおうかな。」
「・・・しますわ。」
「ん?」
「とても優しくて、本当は頼りがいがあって、ネネちゃんのこといつも大切に思ってくれる方、紹介しますわ。」
ネネは半分冗談で言ったにも関わらず、答えたあいの目がやけに真剣に見えた。



冷蔵庫を開けると、チョコレートは無事完成していた。箱に入れ綺麗に梱包し、手提げ袋に入れ、あとは当日を待つばかりである。
ネネはあいに別れを告げ、帰路についた。
歩きながら考えていたのは、「紹介しますわ」と言ったあいの真剣な表情だった。
とても優しくて、頼りがいのある人。
一瞬だれかの顔が頭を過ったのだが、だれかわかる前にすっと消えてしまった。
知っている人のような気がする。
知らない人のような気もする。
ネネは「う~ん・・・」と首を捻り、ポケットに入れておいたチョコレートを口に放り投げた。




【あとがき】
なにげにマサオ君を応援しているあいちゃんなのでありました。
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