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葛葉ライドウ小話 3 [ライドウ小話]

雷伽耶です。
雷堂が帝都に戻ってきたばかりのころの話です。


よろしければ「続きを読む」からどうぞ~。



俺が大道寺家屋敷売却の話を聞いたのは、半年ほど前のことだった。
伽耶ちゃんが事務所に遊びに来た時にぽつりと口にしたのだ。
突然の話に俺はびっくりして理由を尋ねた。今思うとなんて無遠慮な質問だと思うが、それにも関わらず伽耶ちゃんは答えてくれた。
理由は、資金繰りのため。
大道寺家の事業があまり上手くいっていないということは、情報収集が基本の探偵である俺の耳にもちろん入っていた。だが、なんといっても大道寺家は帝都でも有数の名家である。協力を申し出る新興階級の実業家は数多あっただろうに。その手を取らなかったのは、もしかすると伽耶ちゃんとそこの跡取り息子の縁談が条件だったのでは、と考えるのは俺の早合点だろうか。
「本当に大変なのは大道寺ではなく、従業員の方たちです。大道寺家は彼らの生活を、家族を守らなければなりません。そのために屋敷を手放すこと、何一つ惜しくはありません。」
伽耶ちゃんは伏し目がちに、しかしはっきりとした口調で語った。
伽耶ちゃんはまだ高校生だが大道寺家の次期当主でもある。彼女がこう口にするということは、決定事項ということだ。まだ女学生だというのに、彼女の肩にはいろんなものが載っている。ごく普通の女学生のように恋に勉強にお喋りに、時間を楽しいことだけのために使うことはできないのだ。
「・・・このこと、雷堂さんには内緒にしてもらえますか?」
伽耶ちゃんは、手をぎゅっと握りしめ、俺に頼んできた。
「修業中の雷堂さんを煩わせたくないのです。」
この言葉に俺は驚いた。
「煩い事とあいつが思うわけないよ。」
女性に頼られることは日本男児として誉れだ。あいつならこう言うに決まっている。
しかし伽耶ちゃんは首を横に振った。
「もし、万が一でも、雷堂さんの足を引っ張ることになってしまったら。それだけはわたし、絶対に。」
凛とした表情で、伽耶ちゃんは言う。
「・・・わかった。雷堂には言わないでおくよ。」
「ありがとうございます。」
引越しのことよりも、おそらくこちらが本題だったのだろう。言い終えた伽耶ちゃんは、力が抜けたようにほっとした表情になった。
「引っ越し先は決まったのかい?」
「いいえ、まだです。」
「そうか。決まったら教えてくれよ。」
「はい。」
伽耶ちゃんは頷いた。
しかし、この日を最後に、伽耶ちゃんは探偵事務所に来ることはなった。

雷堂が帝都に戻ってきたその日、俺は大道寺家の屋敷が売りに出されていることを雷堂に告げた。
雷堂は一瞬苦虫を噛んだような顔を見せたが、黙っていた俺を責めることもなく、「そうか」とだけ呟いた。
俺は雷堂に伽耶ちゃんの転居先を調査してみるかと提案した。しかし、雷堂の答えは「否」。
「伽耶さんがそう決めたのなら、我は何も言うまい。」
雷堂は学帽の鍔を軽く下げ、部屋から出て行った。



それから幾週間。
雷堂は黙々と探偵事務所に届く依頼をこなしていた。俺が敢えて後回しにしている依頼まで雷堂は受持ち、早々に解決した。学校での疲れもあるだろうに、まるで何かに憑かれているような仕事ぶりであった。
業斗ちゃんにもハイペェスな仕事ぶりについて何か言われているのか(生憎俺は猫語は理解できない)、雷堂が「言われなくても承知している」と業斗ちゃんに向かって話しているのを時折見かける。
身元引受人とペットの両方から心配されるなんて、“第十四代目葛葉雷堂”失格じゃないのか・・・?

そう思っていた頃、事務所に一人の依頼人が現れた。

「今戻った。」
「ほい、お帰り~」
俺は所長ソファをくるりと回し、ぱたんと扉を閉めた雷堂に向き合う。
「お前ご指名の依頼が来たよ。」
「我を指名?」
俺がにやにやしているのが気になるのか、雷堂は眉根を顰めた。
「まあ、そんな警戒しなさんなって。セーラー服の可愛らしい女学生だってば。
俺はにやけたまま雷堂に依頼書を手渡す。
依頼書といっても、淡い桜色のメモ用紙が二つ折りになっているだけのものだ。雷堂は訝し気な表情を浮かべながら、メモを開いた。
雷堂の目が2回文字を追った。
俺が声をかける間もなく、雷堂は事務所を飛び出した。

「やれやれ、まだ時間あるのにねぇ。」
外套を靡かせ待ち合わせの場所へ全力疾走する雷堂の背中を、俺は窓から眺めていた。逸る気持ちに体が追いついてないのか、時々人にぶつかってはよろめき、ぶつかってはよろめきながら走っている。
手に握り締めた桜色の用紙を落とさないのは流石といえるが、それでも微妙に格好悪い。

用紙に書かれていた依頼内容こうだ。短文で、一度読めば暗誦できてしまう。
『蝶のブローチを探しております。詳しいことは、16時に丑橋にお会いしたときにお話したいと存じ上げます。』
依頼主の人柄を表わすかのように、芯の確りした美しい文字であった。

「・・・伽耶ちゃんの前ではズッコケるなよ、雷堂。」
俺が笑いながら独り言をいうと、いつの間にか傍に来ていたゴウトが同意するかのように「にゃぁ」と一声鳴いた。




【あとがき】
雷堂伽耶も好き~。
でもこっちの二人も再会シーンなしの話にしてしまいました(笑)。
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